最悪のノーベル賞
- 2020.01.29
1936年、エガス・モニスとアルメイダ・リマは当時すでに知覚を脳に伝える部分として知られていた視床と、知性と感情をつかさどる部分とされていた皮質に繋がる神経繊維を外科手術で切断することに世界で初めて成功しました。
それから10年程で世界で広く行なわれるようになったこの精神外科手術をのウォルター・フリーマンとジェームス・W・ワッツが改良し、前部前頭葉白質切截法(ロボトミー)として確立しました。
それによりエガス・モニスは世界で広く知られることとなり、ロボトミー手術(ある種の精神病に対する前頭葉白質切截術の治療的価値に関する発見)によってノーベル賞を受賞することになります。
ロボトミーは、主に統合失調症の治療に用いられましたが、患者から人間性を不可逆的に奪う深刻な副作用が問題視されて、1975年頃にはまったく行なわれなくなり、現在では悪評の高い手術となっています。
確かにロボトミーによって精神疾患の症状が改善した例はあるといわれます。
しかし、脳は精神疾患の患部ではなく、そこで知覚や知性、感情といったものを司るところでもあります。
故にこの方法は精神疾患だけではなく、知性や感情をなくすことで疾患を取り除くという、かなり乱暴なものでした。
しかし、ロボトミーによって死亡した遺族や人生を奪われた患者の市民団体からエガス・モニスのノーベル賞医学賞取り消しを要求していますが、今なおノーベル賞の剥奪には至っていません。
有名なところではジョン・F・ケネディの妹、ローズマリー・ケネディもロボトミー手術を行われています。
ローズマリー・ケネディはそもそも知的障害を負っていたと言われており、当時政治家である父、ジョセフ・P・ケネディにとっては頭の痛い問題でした。
そのため、娘にロボトミー手術を受けさせたのですが、この手術は彼女の認知能力をさらに損い、結果として、彼女は2005年に亡くなるまで施設で過ごすことになります。
ただ、ジョセフ・P・ケネディにとってはその方が都合が良かったため当時は伏せられていたようです。
エガス・モニスはこの手術の問題点がいろいろ浮上してきてもなお、ロボトミーこそ精神障害に対するベストの治療法であると信じて疑わなかったままでいましたが、65歳の時に自分の患者に銃撃され、下半身不随となり車椅子の生活を余儀なくされ、81歳で天寿を全うしました。
このように、今もしノーベル生理学・医学賞をとるような、ものすごくもてはやされるような研究があったとしても、それがもしかしたら30年後にはタブーになっている可能性は否定できないのです。