りんごの「ふじ」と桜の「ソメイヨシノ」の接点
- 2023.06.16
人気のりんごの品種「ふじ」と、日本を代表する桜の品種「ソメイヨシノ」には共通点があるのをご存知でしょうか。
じつは、どちらも1本の木から接ぎ木で増やされています。
つまり、全国に1億本あるというふじの木も、数百万本あるというソメイヨシノも、どちらも1本の母なる木と同じ遺伝子を持つクローンということです。
そのため、ソメイヨシノは気温などの条件を満たせばいっせいにつぼみをほころばせ始めます。
これは、同じ遺伝子だからこそなせるワザなのです。
接ぎ木は、根っこが土に張った木の幹の断面に別の植物の枝の断面をくっつけて癒着させます。
うまくくっつけば、接いだ枝が下の台木の根から栄養を吸い上げて育っていくのです。
この技術は歴史が長く、古代ギリシャや古代中国でも取り入れられていたそうです。
昔から、園芸や農業に欠かせない技術だったのです。
世界を見渡してみれば、このように同じ遺伝子をもちながら個体数を増やしていった果実はほかにもあります。
代表的なのがバナナ。
現在、最も多く流通しているバナナはキャベンディッシュという品種ですが、よく考えてみるとバナナには種がありません。
そこで、こちらは新芽が出たら挿し木をして増やしてきたのです。
そのため、大きな農園で育てられているバナナはすべて遺伝的に同じ品種ということになります。
ですが、それが原因で今、キャベンディッシュ種のバナナは絶滅の危機に瀕しています。
「新パナマ病」というバナナを枯らせてしまう伝染病が、 アジアやオーストラリア、中南米といった産地で蔓延しているのです。
遺伝子が同じなので、同じ病気にかかりやすく、1本が病気にかかるとあっという間に農場全体に広がってしまい、壊滅的な被害につながってしまうのです。
この病名に"新"がついているのは、今、人間界を襲っている新型コロナウイルスと同様に以前蔓延した病気の新型だからです。
60年くらい前まで、バナナといえば現在のキャベンディッシュ種ではなくグロスミシェル種でした。
ところが、1950年代後半からパナマ病が蔓延し、グロスミシェル種はほぼ全滅してしまいました。
そこで登場したのが、パナマ病に強いキャベンディッシュ種だったのです。
種のないバナナを人工的に増やすには挿し木しかなく、それが病気の蔓延につながっています。
やはり植物も多様性があったほうがいいということなのでしょうね。